この夏の高校野球選手権も連日本当に好試合が続いて盛り上がっています。試合を観られなかった日はニュースを見て毎晩感動をもらっています。
そして今回特に目に留まったのは、ピンチでも笑顔で乗り切る選手達の姿です。
ひと昔前は、大事な場面で四球を出したり連打されて逆転されると、投手の表情は急にこわばり、捕手も厳しめの表情で投手にゲキを送っていたものです。
ところが最近では、打たれた直後でも投手は笑顔を見せ、アウトカウントを指で示しながら内外野のメンバーに声をかけている姿が多く見られます。
学校ごとの合言葉
また「合言葉」で気持ちをひとつにしている学校も数多く見受けられました。
◆仙台育英の合言葉は ALL IS WELL(全てうまくいく)
ピンチの場面で選手がピッチャーマウンドに集まった時、全員が帽子の裏に書いた合言葉を見直し、声を合わせて発していました。いつも皆で口にしているこのワードを発する事で全選手が平常心を取り戻し、またALL IS WELLの言葉通り「うまくいくさ!」とポジティブな気持ちに切り替えられるのでしょう。
◆天理の合言葉は「底力」
全員が日々この言葉を意識し、野球日記にも「底力だけはどのチームにも負けない!」と書き続けてきたのです。試合では「底力」と書いたカードをユニフォームの後ろポケットに忍ばせ、ピンチの時はポケットに手を当てたりカードを見て確認する選手達。自分達が今まで見せてきた底力を信じて、力を振り絞ってプレーしている姿には心を動かされました。
◆津田学園は「いいね!」のグッドポーズ
自らを「ポジティブ軍団」と呼んでいた津田学園。良いプレーの後だけでなくエラーをしても「いいね!」のグッドポーズを取り、即行で気持ちを切り替えていました。
◆「必勝」ではなく「必笑」
この言葉は複数の高校の合言葉になっているようです。ピンチの場面で伝令の選手がピッチャーマウンドに行き笑顔で選手達を激励する事で、他の選手達の顔にも笑顔が戻ってきます。
このように、各校ごとにポジティブ思考で試合に臨む工夫がなされ、試合でも実践されていたのです。
ミラーニューロン効果の活用
脳科学の世界では「ミラーニューロン」と呼ばれているこの現象。1人の選手が不安と緊張から顔がひきつった表情になると、それを見ている周りの人達にもミラー(鏡)のようにその選手の感情が映ってしまうという現象です。
「試合の流れが変わった」というのは、まさに試合の状況に合わせて、選手同士がお互いの表情から影響を受け合って起こってしまう事なのです。こうなると、ピンチに立たされた側の選手達は顔だけでなく身体もこわばり、いつものプレーが出来なくなっていき、技術面でカバーし切れなくなってしまうのでしょう。
野球でも、8回まで完璧に抑えていた投手が9回に入り急にコントロールが崩れ出した時、タイムを取らず気持ちの切り替えができないまま投げていると、今度は野手が簡単な捕球をエラーし、あれよあれよと言う間に逆転されるという場面は珍しくありません。これはまさにミラーニューロンが影響した結果なのでしょう。
また、口角を上げて笑顔を作るだけで、副交感神経が優位に働き緊張を和らげる事は証明されています。ピンチの場面で緊張して交感神経が高ぶっていても、口角を上げるアクションで落ち着きを取り戻せるのです。
これら脳科学的効果を知らずとも、選手達は日々の試合の経験から「気持ちの切り替えの重要性」や「選手全員でポジティブ思考になりお互いのメンタルをサポートし合う重要性」を感じているからこそ、各校の合言葉や笑顔で励まし合うシーンが数多く見られたのでしょう。
試合後の清々しい笑顔
そして試合終了後のインタビューシーンでも、以前のように泣き続けている選手は少なくなったように感じます。もちろん試合終了直後は悔し涙を見せる選手もいますが、インタビュー時には、力を出し切った清々しい表情で受け答えしている選手達を見ると、ポジティブ思考がしっかり根付いているなぁと感じました。
メンタル強化の必要性
上記のように、ピンチの場面でも笑顔で気持ちを切り替えられるチームや選手が確実に結果を残し勝ち上がってきています。やはり試合に勝つためには、技術面の向上だけでなく、選手達のメンタルを最高の状態に保つ施策が必須なのです。
更に、ポジティブ思考グセがつくと、野球だけでなくそれ以外の物事の捉え方にも好影響が出てくるでしょう。
甲子園を経験した選手達が、たとえ試合に負けてもこの貴重な経験を最高にポジティブに捉え、今後の人生に生かして大きく羽ばたいていってほしいと心より願っています。