筒香選手の少年野球界への提言を広げていこう

横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手が、日本外国人特派員協会で記者会見を行い、子ども達の野球環境に提言を投げかけました。筒香選手は、自身が所属していた堺ビッグボーイズのスーパーバイザーとして野球体験会や練習に参加したり、チームの親御さん達から現場の生の声を聞いたり、またドミニカ共和国の少年野球の視察もしています。それらの経験をふまえて、日本の少年野球界の問題点と改善案を熱く話してくれました。その会見内容をテーマごとに下記にまとめました。

 

◆野球人口減少の本当の理由

「野球人口は少子化現象の6倍~10倍も減少しているというデータがあります」

「(野球人口を増やすべく)プロ野球選手や高校球児が出向いて開催する野球体験会(普及活動)は各地で増えてきています。それはよい事ですが、そこで野球に興味を持った子ども達がいざ野球を始めた時に、体験会と自分のチーム環境のギャップがあまりにも大きくて辞めてしまうという話も多数聞いています」

「また、野球をやりたいのに練習をし過ぎて故障してしまい、続けられない子ども達も多くいます」

 

◆勝利至上主義に問題あり

「日本では、子ども達の将来的な活躍よりも『試合で勝つ』という、今の結果を重視した勝利至上主義に一番問題があるのではと思っています。指導者は良かれと思ってやっている事が、実は子ども達の負担になっているように感じます。試合に勝つ喜びや負けて悔しい思いも大切ですが、子どもより大人の(勝ち負けに対する)思いを優先して行っているのではないかなと思います」

 

◆投げ過ぎによる故障が多い日本の少年野球

「全国では野球の大会数は増えています。しかし骨格の出来上がっていない子ども達が行っている大会の大半はトーナメント制です。トーナメント制で開催していたのでは、勝つにつれて休む暇がなくなりメンバーも固まり、同じ選手が連投して肘や肩を故障する事が増えています。出場できない選手は野球が面白くないと話しています」

「昨年の22歳以下の日本代表15選手のうち、肘の内側障害があった選手が10人(67%)もいたのに対し、ドミニカで調査した224人の同年代の選手では約18%の41人だったという調査結果もあります(慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の調査資料を引用)」

「WBCでは球数制限が導入され、大人である私達の身体が守られているのに、子ども達が球数制限で守られていないのはおかしいと思います。リーグ制を導入したり、ルールを改善して球数制限や練習時間を決めて、子ども達の将来を守るべきだと思います」

 

◆指導者も指導法をアップデートする必要がある

「昨年はスポーツ界で指導者と選手間のパワハラ問題が多数起きました。未来ある子ども達のためにも、皆がこの問題をもっと深く掘り下げて考えて行かないと、また同じ事が繰り返されると思います」

「子ども達は出来なくて当たり前なのに、日本の指導者は苛立って罵声・暴言を発し怒っているという現状を僕自身も見てきました」

「また、(全員ではありませんが)日本の指導者を見ていると、子ども達に答えを与え過ぎているため、子ども達に自分で考える力がついていないと思います」

「少年野球や高校野球を見ていると、指導者が(学生時代)自分が経験した事だけを指導しているケースが多く見られます。しかし時代は凄いスピードで変化しています。指導者も頭を常にアップデートさせて成長していくことが必要だと思います。今勝つことよりも、子ども達の将来を一番に考えれば、そんなに難しい事ではないと思います」

 

◆指導者と選手は同じ目線で

「スポーツマンは対戦チームや仲間に敬意を払い、お互いをリスペクトし合う。指導者と選手の関係も、同じ目線同じ立場で歩み寄り、リスペクトし合い信頼関係が生まれる事で子ども達は成長していくと思っています」

「ドミニカの少年野球チームでは、指導者はミスしても怒る事はなく子ども達に自分で考えさせ、子ども達と同じ目線でお互いをリスペクトし合う中で、子ども達に無理をさせない指導をしていました。日本もドミニカや他国の指導の素晴らしさをもっともっと吸収して学ばなければ変わっていかないと思います」

 

◆大人も子どもも頑張り過ぎず楽しむ環境を

「オフシーズンに堺ビッグボーイズで練習した際に、お母さん方から「近所の(他の)チームに行ったら、あまりにも(指導が)怖すぎて入部できなかった」という声が多々ありました。また「練習が長過ぎて、子供達が遊びに行ったり勉強する時間がない」「親の当番があるので子供たちと出かけたり、親がやりたいことが何もできない」という声がありました。そんな中、堺ビッグボーイズでは現在はそのような事はしていません」

「野球人口が減少していると言われていますが、堺ビッグボーイズの入部数は年々増えています。子どもの将来を第一に考え(親子共に)楽しくできる環境を整えれば、野球人口は増やしていけるのではと思っています」

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記者会見及び質疑応答で筒香選手が何度も繰り返し訴えていたのは「子ども達の将来を第一に考えて」という言葉です。

私はアスリート分析アドバイザーとして、各種スポーツに取り組む子ども達の親御さんからお悩みを聞く機会が多々あります。そんな中でも特に少年野球は、昔ながらの監督王権体制が未だ踏襲されているチームが数多く存在していると聞きます。
「入部した以上全てを指導者に任せ、親は一切口を出さないこと」
と約束させられたり、親が指導者のやり方に少しでも意見すると
「いつ辞めてもいいんですよ!他にも選手はいますから!」
と子どもに対する配慮が全く感じられない言葉を放たれたり・・。親が恐縮している監督のもとで、子ども達が監督と対等なコミュニケーションを取れているとは到底思えません。「今日は肘が痛いので投げられません」とは決して言えない空気の中、優秀な球児が連投を続けて選手寿命を縮めたのでは本末転倒です。

筒香選手も、日本の少年野球・高校野球の世界しか知らないまま、その中で(幸い大きな故障をせずに)成長してきたのです。その彼がドミニカで少年球児達の練習風景を見た時は、愕然としたことでしょう。

この筒香選手の提言を受けて、日本の野球連盟がすぐに動くとは正直考えにくいのが実状です。しかし、この言葉が心に響いた若手の監督陣が、自身のチーム内のルールや体制を改善していく事はできるでしょう。
そして、これから野球をやりたいと言う子を持つ親御さんは、複数の野球チームを見学し、チームの子ども達や親御さんの様子をよく観察しながら、わが子が好きな野球をのびのびプレーできる環境か、慎重に見極めてから入部を決定すべきでしょう。これは他のスポーツチーム選びでも同様です。
さらに言えば「いつ辞めてもいいんですよ!」と言い放つ監督のチームは、たとえ優勝できるような強豪チームであっても、そこにわが子の明るい未来はないと考え、入部しないという静かな抵抗を全ての親がしていくしかないのでしょう。故障したり、精神的に追い詰められて夢半ばで大好きな野球を断念していった子ども達は、明日のわが子の姿かもしれないのですから。
一人でも多くの少年野球・高校野球関係者にこの提言が届く事を願ってブログにまとめました。シェア大歓迎です。

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