東京五輪まであと1ヶ月。各競技の日本代表選手が続々と決定してきました。そんな中、ある選手が引退会見を行いました。リオ五輪の体操団体金メダルメンバーの一人、ひねり王子の愛称で親しまれた白井健三選手です。
◆内村選手が後継者に認めた選手
数年前、内村航平選手がインタビューで東京五輪について質問された際、
「僕と健三が入れ替わるくらいが日本としてはいい。次回は僕は違う引っ張り方をしたい」
と発言していたのを思い出しました。この時白井選手は若干18歳。床の演技で抜きん出た成績が出ていたものの、内村選手の後継者としてはまだまだ未完成の選手だったため、内村選手の突然の発言に白井選手本人だけでなく多くの体操ファンも驚かされました。
◆内村航平選手の存在
内村航平選手は、世界中の体操選手にとって憧れの選手であり神様のような存在と言えます。そんな内村選手から「次の日本代表のエースはお前だぞ」という意味合いの発言をされれば、有無を言わさずその道を目指すのが至極当然でしょう。しかし、当時の白井選手にはこの言葉が、本人も気づかない程大きなプレッシャーとして重くのしかかっていたのではないでしょうか。
◆白井選手は一点集中向きの独立タイプ
統計心理分析タイプで見ると、白井健三選手は体操選手にひじょうに多い、個人競技向きの独立タイプです。その中でも、自分の好きな事に一点集中して取り組むゴールドタイプなのです。
ゴールドタイプのアスリートには、フィギュアスケートの浅田真央さん・宇野昌磨選手、サッカーの本田圭佑選手、マラソンの大迫傑選手などがいます。他の事には目もくれず、大好きな競技を自分のやり方でとことん突き詰め研究しながら技を磨いていく印象があります。
メンタルタイプで言えば、白井選手は(内村選手のように)総合的に全種目の競技で好成績を目指すより、得意な床や跳馬の演技でギネス記録にも認定されたひねり技をひたすら追求した方が、自身のメンタル資質を活かして、今より伸び伸びと成長できた気がしてなりません。
◆体操の採点基準の変更
演技競技では定期的に採点基準の見直しが入ります。体操競技でもリオ五輪後に国際体操連盟が『基本への立ち返り』の方針のもと、採点基準に変更が入りました。その結果、「着地時にかかとを揃える」等の出来栄えのEスコアが今まで以上に重視されることになったのです。これは白井選手には大きな痛手となる変更でした。
彼の得意なひねり技は足を交差して行うため着地で足が前後にずれやすく、新ルールでは今までより大きな減点対象になってしまったのです。これにより、今までは床と跳馬で得意なひねり技を中心に思い切りの良い演技をして高得点を獲得していた白井選手も、新ルールに合わせた演技を強いられることになったわけです。そして(前述の通り)内村選手に指名された『次世代の日本代表エース』になるためには、他の4種目の精度アップも大きな課題として抱えていたのです。
そんな状況の中、日本体育大学で学年が上がると、先輩として率先して後輩の指導にも当たっていたと言います。「将来の夢は指導者」という白井選手にとって、後輩の指導は楽しくモチベーションが上がるものだったのでしょう。
これだけ多くのto do 事項をバランス良く行うのは至難の業。ましてや『一点集中』が得意なゴールドタイプが全てを器用にこなすのは人一倍難しかったことでしょう。練習中にケガをしてしまったのも、真面目な性格の彼が許容範囲を超えた練習を繰り返す中で発生したような気がしてなりません。
◆指導者として第二の人生を
しかし、引退会見での彼の表情は吹っ切れた様子で明るいものでした。会見でも
「未練はひとつもないです」
「スッキリした状態で現役生活を終えることができ、すでに今後のやりたいことに向かって歩み始めています」
「自分に向けてのエネルギーより、後輩に教えて喜んでくれる姿を見るのが喜びになっていました」
と笑顔で話していました。
ゴールドタイプは目標達成志向のため、常に自分で具体的な目標を設定し、その実現を目指して人生を歩んでいきます。彼はすでに「体操競技の指導者」という『こころからやりたい!と思える新たな目標』に照準を定めて走り出していたのです。まさにゴールドタイプの資質が活かせる道だと感じました。
「白井健三の教え子から『シライ3』ができる選手が誕生したら面白いですね!」
と話す表情からはワクワクした思いが溢れ出ていました。
体操ファンの私にも、将来「シライ3」を完璧に決める若手選手と満面の笑みで抱き合っている白井健三コーチの姿を見る楽しみが増えました♪
次のワクワクに向けて、頑張れ白井健三コーチ!!