小出監督が選手ごとに変えて伸ばした指導法

平成最後のブログで、女子マラソン界の名伯楽 小出義雄監督を偲ぶ事になるとは思ってもみませんでした。そしていつのまにか80歳に達していらした事にも驚かされました。
有森裕子選手がオリンピックで2大会連続メダル獲得という快挙を成し遂げた頃、私も同じリクルートに勤務していたため、社員の皆で本社にお2人を出迎えた思い出があり、小出監督にも親近感を覚えずにはいられません。

 

◆選手はわが子と同じ

小出監督といえば、選手達との距離が近く、仲の良い父娘のような関係を築きながら指導している事で知られています。監督ご本人も生前

「選手はわが子と思って愛情を持って接しなければダメ」

と話されていました。

 

◆褒めるところを探し出して伝える

また、小出監督は選手を日々観察しながら、選手の良いところを探し出して褒めていたそうです。

「どうしても褒めるところがなければ「手がきれいだね」と言って手を褒めたこともある」

「親御さんの話を聞いたら親御さんの良いところを褒めて会わせてもらう。そして親御さんからその子のエピソードを聞かせてもらい、良いところをみつけた事もあります」

とも。

高橋尚子選手は葬儀の弔辞で、こう話されていました。

「監督からは「強くなったなぁ」とか「毎日毎日全力で走り、一日たりとも力を抜いた日はなかったよ」と監督が認めてくださった言葉が結果より嬉しかったかもしれません。また「必ず満足いく走りができる」、「笑顔でゴールに帰って来て」、「自分もQちゃんと一緒に走ります。気持ちだけは一緒ですよ」。そうやって1人で走るのではなく気持ちに寄り添ってくださるからこそ、堂々と安心して走ることができました」

 

◆何事もプラスに考えさせる

小出監督の口ぐせは「いいね!」「最高!」。この監督のプラス思考が選手達にしっかり伝播していたことは、練習や試合での選手達の表情を見れば一目瞭然でしょう。記録が伸びてきた選手を人に紹介する際には

「この選手の顔と名前を覚えておいて。金メダルを獲るから!」

と言って紹介するのです。こんな風に言われたら選手のやる気が出ない訳がありません♪

 

◆選手の個性に合わせた対応

小出監督が名伯楽と言われる所以は、選手ごとの個性を見抜いてそれに合わせた対応を取られていたからでしょう。

・有森選手の場合

有森裕子選手のメンタルタイプは、陰で支える縁の下の力持ちタイプ。そしてひじょうに繊細な一面を持っているため、信頼していない人から命令されたり強要されたりするのを強く嫌います。
そんな有森選手に小出監督は「有森先生」と言って、真面目な彼女自身を立てながら声をかけ信頼関係を積み上げていったと言います。そして有森選手の優れた点として「誰よりも努力すること」を褒めて伸ばしたのです。一方、彼女はケガに泣かされた事も多かったのですが、ケガで落ち込んでいる時に小出監督は
「「なんで私が?」と思わず「せっかく」と思いなさい」
と言って、後ろ向きになりそうな彼女を立ち直らせてくれたと言います。

 

・鈴木博美選手の場合

鈴木博美選手(世界陸上アテネ大会金メダリスト)も、有森選手に近しいメンタルタイプです。しかし小出監督曰く、鈴木選手は元々センスを持った天才肌だったようです。彼女に対して小出監督は、無理に練習を強要せず、友達のような目線で、彼女が望む時には相談に乗りながら、本人のやる気が出るのを待ったと言います。

・高橋尚子選手の場合

小出監督を慕って指導を仰ぎ、監督の言葉を素直に受け入れる高橋尚子選手のメンタルタイプは、小出監督と同じポジティブで負けず嫌いな独立タイプです。彼女に対しては監督も素のままの対応で、彼女の良い面を褒め続け、
「おまえは一番になれる!絶対になれる!世界一になれる!」
と言い続けたのです。高橋選手も
「365日そんな風に声をかけてもらえると、いつの間にか本当にそうなるんじゃないかと思えるようになったんです!」
と話していました。

 

◆小出監督の指導法を全ての指導者に受け継いでほしい

本番で孤独と不安にかられる選手達の精神的支えとなり、笑顔とプラスの声かけをし続けた小出監督。昨年パワハラ問題で取り上げられた指導者とは真逆の対応と言えます。
近年では、青山学院大学陸上競技部の原晋監督や、柔道日本代表の井上康生監督のように、個々の選手の個性を見極めて1人ひとり対応を変え、選手のやる気とメンタルをサポートする指導者が素晴らしい結果を残し始めています。小出監督は、そんな選手主体のプラスの声かけ指導の第一人者と言えるでしょう。
この指導法が素晴らしいのは、勝利に繋げられるだけでなく、選手1人ひとりが自分の強みに気づき、自己肯定感を身に着けられる点でしょう。アスリートは引退した後にセカンドキャリアを築く必要があります。この時、指導の中で得た自分の強みを活かせるキャリア選択ができれば、新たな世界でも自信を持って自分自身を伸ばしていけるのです。

平成は今日で終わりますが、令和になっても全ての競技の指導者が、この小出監督流の指導法を受け継いでいってほしいと心から願ってやみません!

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